獣医師の山本です。
獣医師や獣医学生のみなさん、子宮捻転の整復方法で「立位押し込み保持」という方法をご存じでしょうか。
平成26年度日本産業動物獣医学会の北海道地区大会で根室地区NOSAI(現NOSAI道東)の先生が発表され、抄録が北海道獣医師会雑誌(58巻8号, 350~, 2014年8月)に掲載されています。また、鹿大産業動物獣医学研究室OBのブログ「サンドーのブログ」(2014.9.18)に発表スライドらしいものが掲載されています。
子宮捻転といえば、母体回転法、経膣用手胎子回転法、経膣用手押し込み回転法、捻転整復棒、後肢吊り上げ法、経直腸整復法、帝王切開など数々の方法が存在し、論文となっているものもあります。
しかし「立位押し込み保持」はこれらの方法とは一線を画します。上記の方法は転がす、腕力で持ち上げたり回転させる、吊り上げる、切開する、など大掛かりになるか強い力が必要ですが、「立位押し込み保持」は術者の動きがほとんどなく、必要な力は小さくて済み、広いスペースや重機や道具も必要ない、狭い知多半島で働く背の低い私にとっては革命的な方法です。
経膣で胎子の触れる部位を保持して捻転している方向(捻転と逆方向ではない)の斜め上に向かって普通の力で押し込んで待つだけという、「ホントにそれで治るの?」という方法です。
当院獣医師でこの方法をマスターしているのは3人だけですが、そのうち一人は女性です。
当院では牧場に広いスペースが少なく人手も少ないこともあり、経膣用手胎子回転法か捻転整復棒が主流です。私も捻転整復棒ユーザーでしたが、用手胎子回転よりも手の長さや腕力による差が出にくい反面、装着の仕方が甘かったり過剰な力がかかると子牛を骨折させてしまうことがあり、ジレンマを抱えていました。
しかしこの「立位押し込み保持」を使い始めて10症例、捻転が720度であったために整復不可能で帝王切開になった1症例以外は一度も捻転整復棒を使わずにこの方法だけで整復してきました。しかも経膣用手法は2次破水までさせてしまうことが多いのに対してこの方法は2次破水させずに整復できることが多く、整復後に自然分娩に任せやすいという利点もあります。
腕力に自信がない獣医師や体力や腕力に衰えが見られる年齢に差し掛かった獣医師、腰や肩に爆弾を抱えた獣医師にとっては、この方法をマスターすることはもはや必須と言っても過言ではないと思います。
この方法を世に出してくださったNOSAI道東の先生方には深く感謝しております。
NOSAI道東の先生方が現在論文を執筆中とうかがっていますので、文章での説明はかなり難しいのではないかと思いますがこの方法がどのように文章で表現されるのか楽しみです。